【RPE】2015年を振返る
ロシア政治経済ジャーナル No.1317
2015/12/17 北野幸伯
(http://archives.mag2.com/0000012950/20151217021000000.html)
少々早い(12/17時点で)ですが、「今年一年」の纏めをしようと思います。
「纏め」と言っても、起った事件を列挙するだけではありません。
RPEは、二つの視点で世界を見ます。
一つは、「歴史的」視点です。必ず、「過去からの繋がり」を見ます。
もう一つは、「世界的」視点です。例えば「シリア内戦」にしても、「アサド」、「反アサド」だけを見ません。アサドの後ろにいる、ロシアとイラン。反アサドの後ろにいる、欧米とスンニ派諸国、というように、必ず「世界的」に見ます。
この二つの視点から2015年を見ると、「今年はどんな年」だったのでしょうか?
▼ 08~14年を振返る
先ず、簡単に今年迄を振返って置きましょう。
・ 08年。
皆さんご存知のように、アメリカ発『100年に1度の大不況」が起りました。
ロシアでは、「これでアメリカ一極時代が終った」と言われています。
そして、今のアメリカの衰退振りを見れば、「その通り」と思えます。
・ 09年。
世界の大国群が沈む中で、中国だけは9%を超える成長を果しました。
「沈むアメリカ、昇る中国」。この事実が、日本の政界にも大きな影響を与えます。
「親アメリカ」の自民党が沈み、「親中国」の民主党が浮上した。
09年9月、親中・鳩山政権が誕生しました。
・ 10年。
この年も中国は、9%を超える成長を続けました。
「沈むアメリカ、昇る中国」
「我国は、アメリカに取って代り、覇権国家になれる!」と確信した中国は、凶暴化して行きます。
10年9月、「尖閣中国漁船衝突事件」が起りました。
中国漁船が、向うからぶつかって来た。にも拘らず、中国は日本に「レアアースの禁輸」等過酷な制裁を課し、世界を驚かせました。
そして、この事件をきっかけに中国のリーダー達は、世界中で、「尖閣は、我国固有の領土であり、核心的利益である!」と宣言するようになって行きます。(中国が領土要求を始めたのは1970年代始めですが、大騒ぎし始めたのは2010年から)
・ 11年。
東日本大震災、福島原発事故。
さすがに中・韓も、日本バッシングを控えめにしました。
・ 12年。
9月、日本政府は尖閣を「国有化」。
日中関係は、「戦後最悪」になってしまいました。
同年11月、中国はモスクワで、「反日統一共同戦線」構築を提案。
(http://jp.sputniknews.com/japanese.ruvr.ru/2012_11_15/94728921/)
同12月、民主党政権は倒れ、自民党安倍政権が誕生しました。
・ 13年。
この年は、「アベノミクス」で、超久し振りに景気が良くなりました。
(消費税を上げなければ、「好景気は持続したのに」と、とても残念です)
一方で、中国は、「反日統一共同戦線」戦略に沿って、「反日プロパガンダ」を強力に進めて行きました。
・ 安倍は右翼である。
・ 安倍は軍国主義者である。
・ 安倍は歴史修正主義者である。
世界は、中国の主張を徐々に信じるようになって行きます。
13年12月26日、安倍総理、靖国を参拝。多くの国民が、これを支持しました。
しかし、世界では大規模な「安倍バッシング」が起って行きます。
・ 14年。
この年は、年初から大変でした。
日本は、世界からバッシングされていたからです。総理の靖国参拝を批判したのは、中韓に止まらなかった。
アメリカ、イギリス、EU、ロシア、オーストラリア、台湾、シンガポール等々が、中韓に同調し、日本を非難しました。特にアメリカの怒りは酷く、「安倍総理を首にする陰謀がある」と、私は複数の情報筋から聞いていました。
しかし、安倍さんは救われます。その理由は、ロシアが3月、クリミアを併合したこと。
アメリカは、欧州と共に日本を「対ロシア制裁網」に加える必要があった。それで、日米は和解したのです。
こうして、アメリカの敵ナンバーワンは、ロシアになった。
しかし、この年は、もう一つ大きな存在が出て来ました。「イスラム国」(IS)です。
「反アサド派」から離脱したアルカイダ系のISは6月、「カリフ宣言」をします。彼等は、首切り処刑を動画で配信するという、在り得ない残虐集団。アメリカは8月から、「IS空爆」を開始しました。
14年、世界では「ロシアーウクライナ問題」と「IS問題」が最重要だったと言えるでしょう。
そして・・・。
▼ 2015年を振り返る
愈々「今年」に入ります。
先ず、2月、ウクライナで「停戦合意」が実現しました。
署名したのは、ロシア・プーチン、ウクライナ・ポロシェンコ、ドイツ・メルケル、フランス・オランドです。
アメリカは、この合意を「ぶち壊したかった」ようなのですが、大事件(後述)が起り、考えを変えました。この停戦合意は、今も継続中。「ウクライナ問題」は、事実上消滅しています。アメリカを信じたウクライナは、「梯子」を外されたのです。
「クリミアは、事実上ロシアのもの」ということで、欧米は黙認。
ウクライナのGDPは14年、マイナス6.8%。15年はマイナス9%の予測。実質「国家破産状態」にあります。
さて、アメリカが「ウクライナ停戦合意」を受入れることにしたのは、3月に「AIIB事件」が起ったからです。皆さん、もうご存知ですね。
イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、イスラエル、韓国等々が、アメリカの制止を無視し、中国が主導する「AIIB」への参加を決めた。
「AIIB参加国」は、57か国まで増えました。
「親米国家群は、アメリカの言うことより、中国の言うことを聞くのか?!!!」
このことはアメリカの支配層に、巨大な衝撃を与えました。
しかし、大国の中で唯一「AIIB」に参加しなかった国があります。それが、我国・日本。
4月29日、安倍総理は米議会で「希望の同盟」演説を行ないます。
これで日米関係は、劇的に改善されたのです。
5月、アメリカは、本格的に中国バッシングを開始。
「ネタ」になったのは、「南シナ海埋立て問題」でした。
米中関係は急速に悪化し、両国の軍事衝突を懸念する声迄聞かれるようになって来ます。
更に、中国の景気が急速に悪化して行きました。
6月から9月に掛けて、株価が大暴落したのは、記憶に新しいですね。
一方で、アメリカはロシアとの和解に動き始めます。
5月12日、ケリー国務長官が訪ロし、プーチンと会談。
「ウクライナの停戦合意が続けば、制裁解除も在り得る」と発言し、世界を驚かせました。
「希望の同盟」演説で日米関係を好転させた安倍総理。
8月14日には、「安倍談話」を発表。曰く、
<私達は、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。
だからこそ、我国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺ぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれ迄以上に貢献して参ります。>
暗に、「中国ではなく、アメリカにつきます」と宣言した。アメリカは、喜びました。
9月19日、「安保関連法」成立。日本とアメリカの接近は続きます。
9月末、国連総会があり、世界のリーダー達がこぞってアメリカを訪問しました。
一番目立ったのは、アメリカ(特に政界)が、習近平に冷たかったことです。
「夕刊フジ 9月28日」
<一方、目立ったのは、米国内の習氏への冷ややかな反応だ。
米テレビは、22日から米国を訪問しているローマ法王フランシスコの話題で持ち切りとなっており、習氏のニュースは霞んでいる。
中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「習氏にとって一番の期待外れは、全く歓迎されなかったことだろう」と言い、続けた。
「ローマ法王は勿論、米国を訪問中のインドのモディ首相に対する熱烈歓迎は凄い。
習主席は23日にIT企業と会談したが、モディ首相もシリコンバレーを訪れ、7万人規模の集会を行なう。
米国に冷たくあしらわれた習氏の失望感は強いだろう。
中国の国際社会での四面楚歌(そか)振りが顕著になった」>
米中関係は10月、アメリカの「航行の自由」作戦で、更に悪化しました。
<南沙>米中の緊張高まる 衝突回避策が焦点…米軍艦派遣
毎日新聞 10月27日(火)12時34分配信(http://mainichi.jp/articles/20151027/dde/007/030/014000c)
【ワシントン和田浩明】 中国が主権を主張する南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島の人工島から12カイリ(約22キロ)以内の海域に米海軍がイージス駆逐艦を進入させたことで、南シナ海全域の軍事的緊張が一気に高まった。
米国は中国の対抗措置を見越して作戦行動に踏切ったと見られるが、艦船の偶発的な接触など双方が予期しない形での危機に突入する可能性がある。
オバマ米大統領は9月下旬の米中首脳会談で、習近平・中国国家主席に直接、南シナ海の軍事拠点化を中止するよう要求したが、習氏は「主権の範囲内」と拒否していた。今回の「航行の自由」作戦は言わば米国による「実力行使」であり、当然、現場海域に展開する中国海軍の対抗措置を予想したものだ。>
さて、9月末、中東では新たな動きが出て来ました。
ロシアが、シリアのIS(と反アサド派)空爆を開始したのです。
11月13日、パリでISによる「同時多発テロ」が起ります。
この事件をきっかけに、オランド大統領は、「欧米露」による「反IS大同盟」形成に動き始めました。
彼はアメリカに飛び、11月24日、オバマに「大同盟」の形成を呼び掛ける心算でいた。
しかし、まさにその11月24日、会談の直前に、トルコがロシア軍機を撃墜したのです。
(その裏事情、詳細はこちら)
これで「大同盟」構想は、一旦挫折しました。
しかし、「完全に葬り去られた」訳でもないようです。というのも、12月15日、ケリーがモスクワに来てプーチンと4時間会談した。話し合ったのは、やはり「シリア、IS問題」です。
「AIIB事件」で始った米露和解の流れは続いているのです。
▼ 歴史的視点で2015年を見ると
ここ迄、ほぼ時系列で今年の動きを見て来ました。
今度は、「歴史的視点」で「解釈」して見ましょう。
08年、アメリカの一極時代は終りました。
その後は、アメリカと中国の二極時代になっています。
そしてその他の国々は、「どっちにつくのがお得かな?」と考えている。
アメリカ・オバマ政権は、ここ数年間、その資源を非常に「非効率的」に使っていました。
2013年、アメリカはシリア・アサド政権を敵視し、戦争一歩手前迄行った。
2013年末~14年初、中国のプロパガンダに乗せられ、安倍総理の「靖国参拝」に過剰反応、バッシングしていた。
2014年3月から、「クリミア問題」でロシアをバッシングしていた。
2014年8月から、IS空爆を続けている。
シリア、日本、ロシア、ISバッシング。これは、アメリカの国益と殆んど関係がなく、「パワーの無駄使い」と言えます。
シリアにアサド政権があると、アメリカは何か困るのでしょうか?(実際に困っているのは、例えばイスラエル)
安倍総理が靖国に参拝したら、アメリカは困るのでしょうか?
クリミアがウクライナ領か、ロシア領かで、アメリカに何か影響があるのでしょうか?
ISは、確かにテロを起すので問題ですが、空爆するより国内を固めた方が効率的なのではないでしょうか?
しかし、「AIIB事件」で、漸くオバマさんも「真の脅威の存在」に気が付いたのでしょう。
アメリカは、ようやく本来の「リアリズム」に基いた外交に戻りつつあります。
アメリカには、「三つの問題地域」がある。即ち、
1.欧州、具体的にはウクライナーロシア問題。
2.中東、具体的には、シリア、IS問題。
3.アジア、具体的には中国、南シナ海問題。
しかし、2015年、1.のウクライナ問題は、事実上消滅しました。
2.のシリア、IS国問題、アメリカは関与を減しています。
そもそも、シェール革命で世界一の産油、産ガス国になったアメリカ。
中東に対する興味を失いつつあるのです。
そして、すべての資源を、3.の中国問題に集中させつつあります。
アメリカは今年、「資源を正しく使い始めた」のです。
一方、ライバル中国は今年、二回大きな勝利をしました。
一つは、「AIIB」。もう一つは、IMFが人民元を「SDR構成通貨」に採用したこと。
この二つは、文句無しで「中国の勝利」です。
しかし、同時に中国経済は、ボロボロになって来ている。
中国に関しては、パワーの増大と喪失が、パラレルで起っています。
これは、しょっちゅう書いていますが、「成長期後期」の典型的特徴なのです。
纏めてみましょう。2015年、
1.ウクライナ問題は事実上消滅した。
2.アメリカは、ロシアと和解し始めた。
3.アメリカは、中東への関与を減らし始めた。
4.アメリカは、中国打倒を目指し始めた、
こんな感じでしょうか。
一言で、「2015年は、歴史的視点で見るとどんな年ですか?」と聞かれれば、私は、「アメリカが、中国打倒を決意した年である」と答えるでしょう。
こういう状況で日本は?
長くなりましたので、次号で考えて見ましょう。。(既出、12月22日の記事)
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